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モジュールで構成するDC‑DCシステムの設計手法
第5回: 負荷に関する考慮

Tutorial by
Jonathan Siegers / プリンシパル アプリケーションエンジニア
Vamshi Domudala / アプリケーションエンジニア

DC-DC tutorial load considerations image

前回までのチュートリアルでは、電源モジュールを使って完全なDC-DC電源システムを構成する際に必要な、適切なフィルタリングや、安定性保護に関する問題 を取り上げました。今回のチュートリアルでは、負荷に電源モジュールを含むシステムで生じる特有の問題に焦点を当てます。

DC-DCモジュールの負荷は、かつては単純に、電圧と電流だけで表せるブラックボックスとして捉えることができました。ところが、長年にわたり負荷は複雑になっており、今日では電力供給ネットワーク (PDN)として表現される、様々な特性があります。したがって、負荷の振る舞いを詳しく理解し、DC-DCモジュールへの影響を判断する必要があります。たとえば、モジュールの制御ループの応答は、負荷の影響を受けるため、レギュレーション機能の安定性に問題が生じることがあります。モジュールの過渡応答に悪影響が出る可能性もあります。

Load system diagram

図1:システムを設計するときは、必ず負荷の検討が必要です(図のオレンジ色の破線の部分)

基本的な負荷のタイプと、制御ループ・過渡応答への影響

負荷は主に、抵抗負荷、抵抗とリアクタンスの複合負荷、DC-DCコンバータが負荷として配置される場合の3種類があります。抵抗負荷は最も単純な負荷で、DC-DCモジュールの制御ループや過渡応答への影響がありません。抵抗性に加えて、誘導性や容量性の要素が複合した負荷の場合は、DC-DCモジュールの制御ループの安定性と過渡応答に対して確実に影響があります。DC-DCモジュールの負荷がコンバータモジュールの場合は、影響はそれほど大きくありませんが、この場合、前段のモジュールの制御ループの安定性と過渡応答は、後段のモジュールの制御ループ特性に依存します。これらの主な負荷のタイプ以外にも特殊な負荷があり、慎重に解析する必要があります。

3 basic load types diagram

図2:3種類の基本的な負荷:抵抗負荷、抵抗とリアクタンスの複合負荷、負荷として電源モジュールが接続される場合

誘導負荷が引き起こすEMIと性能の問題

誘導負荷の場合は、DC-DCモジュールのターンオフ時に問題が生じます。図3は、単純なインダクタと直列スイッチの例で、誘導負荷の性質を示しています。スイッチが開くと、モジュールからインダクタへ流れる電流の経路が遮断されますが、インダクタは電流の変化を妨げるように働くため、大きな負の電圧スパイクを生じます。この現象により、高周波ノイズパルスが発生したり、開いたスイッチにアーク放電が生じたりする可能性があります。電圧スパイクはDC-DCモジュールの出力(電源バスに接続されているすべての回路)に印加され、モジュールの動作に影響を与え、モジュールのEMI性能やその他の性能にも影響します。これを解決するには、誘導負荷に並列にフリーホイールダイオードを追加して、インダクタに蓄積されたエネルギーの放電経路を作ります。

Inductive loads image

図3:誘導負荷特有の、スイッチオフ時に発生する非常に大きな負の電圧スパイク。電源システムへの影響が大きい。

パルス負荷に効率良く対処するパワーアベレージング

パルス負荷は、電流のピークが非常に大きく継続時間が短い負荷であり、DC-DCシステムの設計で課題になります。このような負荷の電源システムを設計するとき、最も簡単なのは、最大負荷としてパルス電流のピーク値を供給できる電源モジュールを選択することです。ただし、この方法は機能的には問題ありませんが、電源モジュール本体とフィルタや放熱用の部品のための重量とコストの負担が大きくなります。

パワーアベレージング技術を用いれば、より小型で低コストのシステム設計ができます。平均電力は、ピーク負荷と、オン時間とオフ時間の比率で表せます。パワーアベレージングシステムの設計をする場合は、より小型のDC-DCモジュールを使うことができ、大容量のエネルギー蓄積素子を利用することで、負荷のデューティサイクルのオン期間に生じる電圧低下が負荷の仕様範囲内に納まるようにします。このように、最悪条件から過剰なシステムを設計するのではなく、実際に必要な電力に合わせた最適なシステムの設計ができます。

Power averaging technique diagram

図4: パワーアベレージング技術を使うことで、短時間の大電流パルス負荷に合わせてDC-DCシステムを最適化することができます。

パワーアベレージングに使う電源モジュールを選択する際、いくつか注意点があります。まずパルス負荷がピークのときに、電源モジュールの出力に配置した大容量コンデンサから負荷へ電力を供給できるように、電源モジュールの出力電流と電力には制限をかける必要があります。また、パルス負荷特性によっては多くのエネルギーを蓄積する必要があるため、DC-DCモジュールは大容量の出力コンデンサが付いている状態で、正しく起動して動作する必要があります。出力のコンデンサ容量が大きいと、モジュールの安定性にも影響を与える可能性があるため、システム設計で配慮する必要があります。

電力供給ネットワーク (PDN) に組み込むための大容量コンデンサを選ぶ際、重要な検討事項が3つあります。第1に、定格電圧はシステムの動作電圧の約140% (またはそれ以上) にします。第2に、発熱が大きい環境ではシステムの信頼性に悪影響が出ないように、適切な温度プロファイルのコンデンサを選びます。最後に、これらの性能と、許容できる物理的な大きさのバランスを考えます。

大電力の負荷にモジュールの並列接続で対応

モジュールで構成するDC-DCシステムの最大の利点は、拡張性が高いことです。電源モジュールはカレントシェアが可能であり、並列接続することで障害に備えることもできます。信頼性が向上し、ディスクリート設計を新たに導入せずに大電力を供給することができます。電源モジュールを並列に接続する場合、それぞれのモジュールの制御の相互作用を気にする必要がない場合もありますが、主に2つの点に注意する必要があります。

1つめは、複数のモジュールを接続するとき、単体で使うときに比べて電力のディレーティングが必要になることがある点です。例えば複数接続したモジュールは、モジュール単体の最大定格負荷では起動しないことがあります。2つめは、故障が発生したモジュールをシャットダウンまたは再起動するときに、システム全体が止まらないように、外部に制御回路が必要になる点です。

並列接続したモジュールのカレントシェア

並列接続したモジュールの性能を最大限に引き出すためには、それぞれのモジュールの負荷を均等にします。これにより、各モジュールの熱ストレスが均等になるため、システム全体の信頼性を最大限に高めることができます。カレントシェアの最も簡単な方法は、ドループ特性を利用するものです。負荷へ電流を流す際に、電流値が大きくなるに従いモジュールの出力電圧が下がるようにすることで、モジュール間の電流バランスを促します。また、複雑な構成ですが、各モジュールの出力電流をモニターするアクティブカレントシェア制御もあります。

ノイズのデカップリングにより、モジュールの並列接続の給電品質が上がる

モジュールを並列接続するときは入出力フィルタが必要です。モジュールから生じたノイズ電流が隣のモジュールに流れて干渉しないようにします。ノイズ電流が並列回路間を自由に流れると、システム全体に影響する重大な問題が起こることがあります。

Parallel filtering diagram

図5:スイッチング周波数ノイズ(緑と青の矢印)を、各並列モジュールの入・出力フィルタで低減することで、ビートノイズが並列回路内を廻ってシステムが不安定になることを防ぎます。

システム全体のスイッチング周波数ノイズのプロファイルに、スイッチングノイズの低周波成分が加わることで、システムの安定性が影響を受けることがあります。このようなビート周波数は、並列接続のモジュールが全く同じ種類の同じモデルだとしても個体差があるため生じます。理想的には、並列接続する全てのモジュールのスイッチング周波数が同じであれば、ノイズが重なるため、ふり幅の大きい単一周波数のリプルができるのですが、実際はもっと複雑になります。

それぞれのモジュールに入出力フィルタを設置すべき理由は、もう一つあります。1つのモジュールから生じる通常のノイズが、並列接続した他のモジュールに伝わることで、負荷の変化がなくても、モジュールの動作は大きく変動することがあります。出力フィルタの設計については、当シリーズ第2回のチュートリアルを参照してください。(第2回)

並列接続によるフォルトトラレント性と冗長構成

モジュールを並列接続して冗長構成にすることで、フォルトトラレント性が向上します。これにより、わずかなコスト増加で、DC-DC電源システムの信頼性と安定性が大幅に向上します。システムにモジュールを1つ追加して並列接続することで、N+1冗長システムを構成できます。さらに複数のモジュールを並列接続することで、N+Mの冗長構成が実現します。

具体的な構成はアプリケーションによって異なりますが、基本的に同じです。モジュールの出力をOR接続して、故障や短絡が起きたときに全体がシャットダウンするのを防ぎます。これの実現方法は2つあり、ダイオード、またはMOSFETを用いたアクティブ回路を、各モジュールの出力に直列に入れます。ダイオードを直列に入れることで、モジュールが短絡したときに出力を切り離し、並列接続した残りの部分へ影響が及ばないようにします。ただし、通常運転中に出力電流を流すと順方向の電圧降下により電力損失が発生します。損失を軽減するには、順方向電圧降下の温度係数が負であるので、ダイオードの温度を高くします。さらに損失を減らすためには、ダイオードの代わりにMOSFETを用いたアクティブ回路を使うと、ダイオードと同じ機能を実現しながら効率低下を抑えることができます。

Redundant array diagram

図6: 1つのモジュール故障でシステム全体がダウンしないための、モジュールのOR接続の方法が2つあります。直列にダイオード、またはMOSFETを用いたアクティブ回路を入れます。

モジュールで構成する電源は進化しています

電源に対する負荷の要求は着実に増しているため、年を追うごとにディスクリートソリューションの設計は煩雑になっています。もっと大きい電力、高い電源品質、高い効率、スケーラビリティ、厳しい設計スケジュール、その他の多くの課題があります。モジュールを組合わせる電源設計の手法は、これらの変化へ対応するために明らかに有利です。ただしそれは、これまでとは違った考えを取り入れ、新たなツールや技術を導入していくということです。電源モジュールは、小型化、高効率化、高性能化が着実に進んでおり、モジュールを組合わせる設計手法を理解するために時間を割くことは、非常に有意義であると言えます。

本チュートリアルシリーズでは、モジュールを用いたDC-DC電源システムの設計プロセスを一通り網羅し、大まかに解説しました。基本的な電源システムのアーキテクチャ (第1回) 、ノイズフィルタと安定性における注意事項 (第2回) (第3回)、安全要件 (第4回) 、そして最終回のこのチュートリアルでは、特定の負荷に関する特殊要因と並列接続を扱いました。本シリーズは、急速に変化する技術に対応した、高品質で安定した電源を設計するために、大いに役立つでしょう。

DC-DCチュートリアルシリーズ

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