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パトリシオ・ヴィンチアレッリ、Vicor を設立して電力変換の課題解決に挑む

パトリシオ・ヴィンチアレッリは40年以上にわたり、パワーエレクトロニクス業界に新しい道を切り開き続け、顧客の電源システムに組込むための、業界最高水準の電力密度と電流密度のモジュール型電源を生み出してきました。

Patrizio Vinciarelli photo

伝説的なインテル社の共同創業者ゴードン・ムーアが1965年に発表した、集積回路(コンピュータ・チップ)のトランジスタの数は約2年ごとに倍増するという有名な予測は、ほとんどの人に知られています。量子レベルに近い物質を操作することは技術的に限界に近づいていますが、そのサイクルは現在も続いています。

配電網から微細なチップに給電する電力変換技術にも、同様に技術革新のサイクルが必要であることは、ほとんど知られていません。しかし、スイスのCERNとニュージャージー州プリンストンの高等研究所で、高エネルギー物理学を研究していた元教授は、この問題を解決するために、それまでのキャリアで身に付けた多くの技術と知識をつぎ込みました。彼は自身の画期的な電力変換の方法論を、理論物理学からビジネスの世界へと持ち込み商業化しました。それがVicorです。

1981年、パトリシオ・ヴィンチアレッリは博士号を持つ学者から実業家へ転身して、Vicorを設立しました。特許技術に基づいて、電源モジュールと電源システムの設計から開発、製造、販売までを担うビジネスです。彼は100を超える電力変換技術の特許を持っています。1990年には株式公開( VICR) をして、現在Vicorの時価総額は20億ドルを超えています。

「卒業後の職業人生の最初の10年間は、素粒子物理学の基礎研究が専門でした。ヨーロッパではジュネーブの欧州原子核研究機構で、アメリカでは西海岸のスタンフォードと東海岸のプリンストンで研究しました。過去100年で私の専門分野は劇的に発展しましたが、そこに来て失速してきていました。そのことに私は苛立ちのようなものを感じるようになりました。」電力変換技術で100以上の特許を持つヴィンチアレッリはこう話します。

彼は、当時の電力変換技術は原始的で拡張性に欠けると考えていました。そこで、今よりはるかに高い電力密度を実現する方法、すなわち軽く小さくわずかなスペースで大きな電力を扱う方法を追求するため、学者からビジネスマンへと転身したのです。
Vicorを設立して間もない頃にヴィンチアレッリは、実現可能と考えられていた動作周波数より10から15倍も高い周波数で、電力を削減する方法を考え出しました。

理論から3年をかけて、Vicorは当時の水準と比べて20倍近い電力密度である1立方インチあたり25ワットを実現し、1984年に最初の製品を発表しました。ヴィンチアレッリによれば、2人のノーベル物理学賞受賞者から出資を受けてVicorは設立されました。「それ以来、私たちはこの重要な指標について改善を続け、今では1立方インチあたり約10,000ワットの製品もあります。1980年の最高水準と比較して、1,000倍から10,000倍も向上しています」と、ヴィンチアレッリは話します。

Vicorは、特許を持つ高性能電源モジュールで、2022年に4億ドルに近い売上を達成し、AI、車両の電動化、太陽エネルギー、自動車、データセンター、次世代コンピューティングの分野でイノベーションに貢献しました。マサチューセッツ州アンドーバーに本社を置き、従業員は1000名を超え、製造工場も同じくアンドーバーにあります。ヴィンチアレッリは、自社の全ての製造施設がアメリカ国内にあることを誇りに思っています。

実際に、Vicorは敷地面積90,000平方メートルの最新鋭の製造工場をアンドーバーに新設し、稼働を始めたところです。この工場は、同社がサービスを提供する急成長分野の需要に対応するために建てられたもので、同社によると、世界初のChiP™ (Converter-housed-in-Package) 製造工場とのことです。

Vicor ChiP Fab addition

「Vicorは、アメリカを製造拠点にする戦略が正しいと常に信じています。オートメーションとテクノロジーは、技術開発を行う場所を拠点にするべきです。そしてその場所は、製造工場そのものにごく近い場所であるべきだと信じています。」と、ヴィンチアレッリは話しました。

ヴィンチアレッリによると、新しい製造工場に投資した1億ドル近い費用はまもなく回収され、年間約10億ドルの収益がもたらされるだろうとのことです。将来の利益を見据えたこれほど大きな資本投入は、投資家の忍耐にかかっていますが、この投資にもかかわらず当社のキャッシュフローは良好です。忍耐強い投資家は報われるだろう。と、ヴィンチアレッリは答えます。

ヴィンチアレッリはイタリアのローマで学識豊かな家庭に育ち、父親は国連外交官として世界中の紛争地域に赴いていました。幼い頃から科学に関心を持ち、物理学の刺激に溢れた発展を目のあたりにしたことで、ますます科学への興味を深めました。ローマ大学に進学し博士号を取得した後、アメリカで博士研究員として、電力システムのより良いソリューションの開発に10年取り組みました。これが1981年にVicorを設立するきっかけとなりました。彼は、起業初期の成功は、物理学会と学者の同僚からの励ましと投資のおかげだと考えています。

Vicorと76歳のヴィンチアレッリの将来はどうなるでしょう?20億ドルの時価総額は、大手企業やプライベート・エクイティによる買収の対象になるでしょうか?

「ご想像の通り、投資銀行家の姿は目につきますし、話をするのもやぶさかではありません。しかし率直に言って、この会社の文化はとても強いと思います。市場機会は非常に大きく、時宜にかなっています。私自身だけでなく、私たちは大いに楽しんでいますし、社内の関係者も社の展望に期待していると思います。ですからこの先5年か10年は、このまま進んでいくでしょう。その頃には買収の話もさらに魅力的になっているかもしれません。私自身はといえば、やる気と期待に溢れており、他のことは考えられません。」ヴィンチアレッリはこう結びました。

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