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技術記事

ネットワークスイッチにおける高信頼性DC-DCコンバータ

ネットワーク機器が高信頼性・高可用性を提供するためには、高信頼性の電源が必要不可

Data center image

著者: Vicor シニアアプリケーションエンジニア 水谷 豊

クラウドサービスの急速な拡大に伴い、データトラフィックは飛躍的に増加しています。この傾向は、2024年から2033年にかけてCAGR (年平均成長率) 約20%の成長が予想されています。このような急激な成長に対応するためにルーターやネットワークスイッチなどのネットワーク機器は、データフローを円滑化させる上で重要な役割を果たしています。

大量のデータに対して中断のないサービスと低遅延を保証するためには、ネットワーク機器には高い信頼性と可用性が求められます。これを達成するために、電源システムは重要な要素です。ネットワークインフラの標準入力は -48V DC ですが、ネットワーク機器は正電圧で動作します。そのため、負の入力電圧を正の出力電圧に変換するために、絶縁型 DC-DC コンバータが用いられます。これらのコンバータの冗長化は、障害発生時にシステムの稼働時間を維持するために不可欠です。(図1)

Power system configuration in network switch applicaitons image

図1: 高信頼性ネットワークスイッチ電源システム構成図

広い入力電圧範囲にわたって安定した12V出力

ネットワークスイッチは、通常外部の -48V DC 電源装置から給電されます。しかし、この入力電圧は -36V ~ -75V の範囲で大きく変動することがあります。ネットワークスイッチの DC-DC コンバータは、このような広い入力電圧変動にもかかわらず、安定した 12V の出力電圧を維持しなければなりません。

競合他社の電源モジュールの中には、-36V ~ -75V の入力電圧範囲をうたっていても、この全範囲にわたって安定した出力を維持するのが難しいものもあります。これらのモジュールは、入力電圧が下限に達すると、安定した 12V の出力電圧を供給できない可能性があります。

一方、VicorのDCMモジュールは、-36V ~ -75V の全入力電圧範囲にわたって安定した 12V の出力電圧を維持することに優れています。Vicor のDCM3623 は、Vicor 独自のコントローラ IC を一次側に搭載し、出力を能動的に制御することでこれを可能にしました。DCM3623 の入力と出力電圧の関係は、Vicorpower.com の"プロダクト シミュレータ"を使って確認することができます。

Vicor DCM3623E75H13C2T00 は、このような厳しい要求を満たす高性能 DC-DC コンバータです。その高い電力密度と並列動作能力により、大規模データセンターの高密度ネットワークスイッチの電源システムに最適な選択肢となります。本稿では、この製品の具体的な機能について詳しく説明します。

追加部品不要で電力拡張性の実現

ネットワークスイッチにおいて、重要な情報資産に対するサービスの継続性を確保するためには、冗長電源が必要です。複数の電源モジュールを並列動作させる場合、一般的には各モジュールが出力電圧と電流をモニタリングし、その情報を互いに共有して出力電流のバランスを取る必要があります。さらに、電源間の電圧差による循環電流を防ぐために、出力側に ORing ダイオードを追加することがあります。通常、電源の並列動作にはこのような追加部品が必要となります。

しかし、Vicor DCM 電源モジュールは、追加部品なしで並列動作が可能です。(図2). この機能を実現しているのが、DCM に内蔵された「ドループ特性」(Droop)です。これにより、電流シェアリングが可能になり、設計が簡素化されます。

Parallel array configuration for scalable redundant output power image

図2:  並列構成によるスケーラブルな冗長電源システム

並列運転におけるドループ特性

ドループ特性とは、負荷電流や内部温度などモジュールの状態の変化に応じて、電源の出力を自動的に調整する制御機能です。

出力電圧は、下記式で表されます。

VOUT = 12V + 0.6316 x (1 - IOUT / 26.67) - 1.600 x 0.001 x (TINT - 25) + ΔVOUT-LL

※ この式は DCM3623E75H13C2T00 にのみ適用されます。他の DCM のVOUTを計算する際は、該当する DCM のデータシートを参照してください。

Defining terms ( 図3参照):

VOUT = 出力電圧

IOUT = 出力電流

TINT = モジュールの内部温度 °C

ΔVOUT-LL = ライト・ロード・ブーストで加算される電圧

モジュールは、25℃ のとき定格負荷 (IOUT = 26.67A) で、公称電圧 12V を出力します。

一定温度下では、DCM のロード・ラインは -5.26% の負の傾きを持ち、無負荷 (IOUT = 0A) の場合と比較して、定格負荷(IOUT = 26.67A)の出力電圧は低くなります。このロード・ラインによる電圧差は0.61V (12V x 0.0526) です。

DCM 内蔵のコントロール IC は内部電流をモニタリングし、出力電圧を調整します。並列動作において、出力電流の少ないモジュールは高い電圧を出力し、出力電流の多いモジュールは低い電圧を出力します。

さらに、モジュールの温度変化も出力電圧にわずかに影響を及ぼし、電流シェアリングに影響を与えます。あるモジュールが他のモジュールよりも負荷が高くなると、そのモジュールの相対温度が上昇し、出力電圧が低下します。他の並列接続された DCM の出力電圧は、負荷がかかっている DCM の出力電圧に追従するため、負荷をより均等に分散させるために自動的に出力電圧を調整します。

定格負荷条件では、DCM は -40℃ と比較して 120℃ で低い電圧を出力します。-40℃ と 125℃ の間の電圧差は 0.256V です。

このドループ特性は、ロード・ラインと温度係数の両方の効果により、追加回路なしで DCM モジュール間の電流バランスを実現します。

Calculating the droop voltage as a function of load line and temperature coefficient (DCM3623) graph image

図3:  ドループ電圧特性のロードラインと温度係数の関係(DCM3623)

ライト・ロード・ブースト

最後に、上記 VOUT 式中の ΔVOUT-LL に関する補足事項を説明します。

ライト・ロード・ブーストは、コンバータの内部消費電力と外部出力負荷の合計が、1 スイッチングサイクルあたりの最小電力伝達量を下回ったときにアクティブになります。これは通常、負荷電流が定格値の 10% を下回ったときにアクティブになります。

ライト・ロード・ブースト中、DCMのパワートレインが繰り返しオンオフし、スイッチング周波数を下げ、モジュールの消費電力を大幅に削減します。

オフ時間が長くなることにより出力電圧が上昇する可能性があります。(図4)、特に無負荷条件下では、この電圧上昇が最大 2.15V に達する可能性があります。この電圧上昇を軽減させるために、出力側にブリーダ抵抗を追加して数10mA の電流を流すことで、ΔVOUT-LLを効果的に低減できます。

Impact of light load regulation on output voltage graph image

図4:  軽負荷時の出力電圧変動

ネットワークスイッチの電力供給には、安定性と負荷電流のバランスが不可欠

Vicor DCM3623は、独自の制御ループ技術により、広範囲の入力電圧変動下でも安定した出力電圧を実現します。さらに、ドループ機能を集積しているため、複数のモジュールを並列接続した場合に、外部部品やモジュール間の通信を必要とせずに負荷電流を自動的にバランスさせることができます。これにより、電源回路設計が簡素化され、データセンターのネットワークスイッチなど、高信頼性が要求されるシステムにおいて安定した電源供給が可能になります。

本記事は Power Systems Design に掲載されたものです。

電気工学の学士号及び経営学修士(MBA)を取得、電機業界にて25年以上にわたり、車載、産業機器、民生用電子機器など多岐にわたるアプリケーションの設計開発および技術サポートに従事。現在は、高性能コンピューテイング(HPC)、航空宇宙・防衛、産業機器、車載向けの電源システムに関する技術サポートを提供しています。

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Vicor シニアフィールドアプリケーションエンジニア 水谷 豊

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